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人形劇と大政翼賛会

大政翼賛会の文化宣伝部は人形劇を国威発揚の道具として用いていた。1943年の大政翼賛会宣伝部の刊行物には「人形劇叢書」というシリーズがあり、『人形劇のすすめ』『人形劇脚本集』、『指つかい人形劇』、『糸あやつり人形劇』といった書目がある。指人形にまで国家の思想教育は及んだ。戦時下の人形劇については加藤暁子『日本の人形劇』(2007)で扱われているほか、指人形のくだりは井上春樹『日本ロボット戦争期1939~1945』(2007)でも触れられている。昨年には滋賀県大津市にある人形劇の図書館で館長潟見英明によって「戦時下の人形劇」という展示が開催された。京都新聞社の「戦時色に染まった人形劇 大津の図書館収集」という記事がその様子を伝えてくれる。大政翼賛会が人形劇に関心を持っていたことは注意を引く題材だろう。それ以上に興味深いのはこの運動の中心人物であった小沢愛圀の存在だ。

デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説

小沢愛圀 おざわ-よしくに

1887-1978 大正-昭和時代の演劇研究家。
明治20年12月18日生まれ。「時事新報」記者をへて慶応義塾参事,「三田評論」編集長をつとめる。昭和18年「世界各国の人形劇」を刊行。戦後日大講師,奥羽大教授,東京理大講師。人形劇史の研究で知られた。昭和53年6月25日死去。90歳。静岡県出身。慶応義塾卒。 

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(C)Kodansha 2015.

小沢愛圀は人形劇史について大正時代から研究した数少ない人物である。小沢は三田史学会の草創期より携わり、『史学』に1921年に「人形及び人形芝居に関する研究」、1922年に「影絵の研究及びその資料」を寄稿している。それ以前にも三田評論に演劇、人形芝居に関しての論考がある。

ci.nii.ac.jp

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小沢は1968年の日本近代文学会で「私の見た明治文壇の人々 ―平田禿木戸川秋骨永井荷風釈迢空」という題で講演しており、折口信夫とは1887年生まれで同世代になる。大正の自由な知的風土の中、小沢は英仏独語に通じ、また江戸の演劇への造詣も深かった。丸善の洋書文化で育った世代だ。浄瑠璃からヨーロッパの演劇まで関心を持ち、小沢の論考には東西の文献が引かれ、参考文献は今に至っても人形劇の恰好の案内だ。カエルのキャラクター、ケロヨンで知られた藤沢清治に人形劇を教授したのも慶應の講師であった小沢だった。日本で人形劇の研究の第一人者であった小沢だが、しかし、彼の人形劇史がまとめられたのは、戦時下で大政翼賛会の会員の肩書としての『世界各国の人形劇』と『大東亜共栄圏の人形劇』の2冊のみとなった。広範な知識を持ちながら戦時下にしか、まとまった著作を作りえなかった、人形劇史の立場とは、小沢の研究とはどのようなものであったのだろうか。この2冊は戦時下に似合わないほど美しいつくりだ。後者は2000年に大空社にて復刊された。

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