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伊藤若冲とトライポフォビア

トライポフォビア(Trypophobia)という用語があるギリシア語のTrypo(穴)と英語のPhobia(恐怖症)を合わせた造語で、集合物恐怖症を意味する。無数の穴が空いた蓮の実や、蜂の巣など、反復的な穴や、粒が集まった形状の図に対して不快感を持つ症状を指す。ぶつぶつがこわいという感覚を抱く人々はインターネット時代に共感しあい、2000年代には一つのタームとして「トライポフォビア」は認知された。

伊藤若冲の絵を見るにあたってこのトライポフォビアの視点が価値をおびるのは、トライポフォビアの不快感を掻き立てる図像を好んで若冲が描き続けたからだ。例えば、若冲お気に入りの主題であった鶏の肉垂のディティール、「玄圃瑶華」の鶏頭、「菜蟲譜」のお玉杓子の群れ、「石灯篭図屏風」の点描、升目描き。小画面から大画面に至るまで若冲は、無数の穴・粒の繰り返しを好んで描いた。若冲はトライポフォビアならぬトライポフィリアであったのではないか。「動植綵絵」などは、トライポフォビアを鳥肌たたせる細部の宝庫である。このような集合物への嗜好からトライポフィリアなるものとして若冲の絵を眺めて見れば、そこには眩暈を引き起こす何かがあるかもしれない。